会社設立後の個人事業廃止で必要なこと

法人成り(個人事業を会社組織にすること)をすると、法人成りをした事業については個人事業を廃止することになります。
同じ事業を個人事業で行うか、会社組織で行うかの違いですので、日々の仕事では変わりがないように思えます。
しかし、法律の視点から見ると、あなたが行っていた個人事業をあなたが社長を務める会社が引き継いだだけですので、実際には明確に線引きすることになります。
法人の設立日とその事業開始日は同じ日でなくても大丈夫です。
ただ、個人の廃業日と法人の事業開始日は続いている必要があります。
例えば、個人の廃業日が7月31日であれば、法人の事業開始日は8月1日と言うことになります。
個人事業を廃止した場合、必要な手続きとしては、●税務署へ対する届出書の提出、●廃業年度の確定申告があります。
また、個人事業で社会保険に加入していた場合は、社会保険においても廃止の届出が必要となるため、管轄の年金事務所等へ必要な手続きについて問い合わせましょう。
届出書の提出
税務署へ対する届出書は次の通りです。
1.個人事業の開業・廃業等届出書
→ 個人事業の全部を廃止するのか、一部を廃止するのかを記載するようになってます。一部を廃止する場合はどの事業を廃止するのか記載してください。
2.所得税の青色申告の取りやめ届出書
→ 複数ある事業のうち、事業の一部が個人事業として残る場合や不動産所得が生じる場合は提出してはいけません。全ての個人事業を廃止する場合だけ提出してください。
3.消費税の事業廃止届出書
→ 消費税の課税事業者であった場合に提出してください。なお、事業の一部が個人事業として残る場合で課税売上があるときは提出しません。
4.給与支払事務所等の廃止届出書
→ 個人事業の全部が廃止になる場合は、1の届出を提出していればこの届出書は不要です。事業の一部が残る場合で給料の支払いがなくなるときは提出します。
このほか、予定納税を行っている場合は、所得税の予定納税の7月(11月)減額申請書を提出した方が良いです。
会社設立後、社長個人の不動産を会社に貸す場合には、会社は社長に家賃を払うことになるため、不動産所得が発生することになります。たとえば、自宅の一部を事務所として貸した場合、社長に不動産所得が発生するので、それまでと同様に確定申告を行うことになります。
このような場合は2と3は提出する必要がありません。
特に2は絶対に提出しないでください。青色申告のとりやめをしてから1年間は、再び青色申告の承認申請を行っても却下される可能性があります(所得税法第145条)。つまり、新たに家賃収入が生じることになったからと言って、再び青色申告の承認申請を行っても、青色申告の取りやめから1年経過していないと承認してもらえず、白色申告になる可能性があるということです。
廃業年度の確定申告
廃業年度の確定申告も基本的には今まで行ってきた確定申告と同じです。申告期限も翌年3月15日となっており全く変わりはありません。
ただ、個人事業の最後の申告となるため、いつもと少し異なる点があります。
1.事業を廃止した場合の必要経費の特例
事業の廃止後に事業にかかる費用又は損失で、事業を廃止しなければその年分以後の所得金額の計算上必要経費となるべき金額が生じた場合には、その廃止をした年分の必要経費に算入するという特例があります。
例えば、貸倒損失です。事業を行っている取引先が倒産し、売上代金を回収できないときは、通常であれば、売上代金を回収できないことが確定した年分の損失として計上することができます。しかし、事業を廃止していると、それができないため、廃止をした年分の必要経費にすることができます。事業廃止年分の確定申告後に損失又は経費が生じた場合には、更正の請求をします。
※更正の請求とは、簡単に言うと納めすぎた税金を返してもらう手続きです。
2.事業税の見込計上
事業税は払った年の必要経費になります。つまり、平成26年分の所得にかかる事業税は平成27年分の必要経費なので、翌年の必要経費になるということです。
しかし、これも廃業していると翌年がないため、事業税の見込額を計算し、廃業年分の必要経費として計上します。
見込額の計算式=(事業所得+青色申告特別控除-按分した事業税控除額)×R/(1+R)です。
※Rは事業税率です。5%の事業税率なら、0.05/(1+0.05)=0.0476・・・となり、約4.76%です。
事業税の控除額は290万円/年です。これは、月割りで計算します。1か月に満たない日数は1か月とします。7月15日に廃業した場合は7か月となり、290万円×7/12=169万2千円です。1,000円未満の端数は切り上げてください。
3.青色申告特別控除額は月割りしない。
上記の事業税の控除額は月割りをしましたが、所得税の青色申告特別控除額(65万円又は10万円)は月割りしません。
4.従業員の退職金
従業員がいて退職金を支払う場合、その退職金が廃業した個人事業に掛かる経費なのか、法人成りした会社が負担する経費なのかという問題が出てきます。なぜなら、通常退職金というものは勤続年数に対応して発生するものだからです。個人事業時代から長年勤務してくれている従業員が法人成り後1年以内に退職したときは、そのほとんどが個人事業時代の勤続年数に対応することになります。そのため、その退職金のうち、法人で勤務した期間に対応する部分以外は個人事業の必要経費です。
こういった場合、個人事業の必要経費となる金額は更正の請求を行います。
但し、更正の請求の期間は5年であるため、その期間を超えると行うことができません。
個人事業において退職金規程があり、その規程に基づき支給する旨を従業員に通知した書面を残すなど債務として確定していると認められる場合は、個人事業の廃業年分の必要経費として確定申告をすることができます。
また、個人事業時代に退職金規程がなく、法人成りした会社において退職金規程を作成した場合において、個人事業時代からの期間を勤続年数に含めて退職金を計算する旨を定めていれば、退職所得の計算上、個人事業当時の勤続期間を含めて勤続年数を計算することができます(←これは退職金をもらった従業員の税金の話です)。
なお、個人事業時代の勤続年数に該当する退職金は、法人設立後相当期間が経過していないと、法人の経費とはなりません。この相当期間は更正の請求の期間が5年であるため、5年が適当かと思います。この相当期間については、法律で明確にされていないため、その状況によっては認められない可能性もあります。
5.一括償却資産の必要経費算入
一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産を3年間で均等償却する処理を選択した資産です。
例えば、取得価格15万円の減価償却資産であれば、どんな種類の資産であっても1/3ずつ償却するため、1年あたりの減価償却費は5万円です。
この一括償却資産ですが、廃業年度はまだ償却していない金額を全額経費に計上します。
さっきの例で、15万円のうち10万円がまだ償却されずに残っていれば、廃業年度に10万円を減価償却費として計上することになります。
まとめ
法人成り後、廃業時に気を付けるべき主な事項を記載しました。状況次第では上記以外にも廃業年度の確定申告時に適用できる規程があります。疑問に思うことは専門家や税務署等に問い合わせましょう。
※上記は執筆時点の法律に基づいて記載しています。法律は毎年改正されるため、実際に申告等を行う場合には現行の法律を確認するか、専門家に相談されることをお勧めします。