知っておいて損はない—軽減税率にまつわる消費税の特例

2019年10月1日から消費税率が10%になるとともに、軽減税率制度が導入されました。
食品などが8%に据え置かれたのは、一般消費者としてはありがたい話ですが、消費税の申告をするにあたって8%と10%に分けて経理をする必要があり、事業者にとっては悩みの種だったりします。
国も多少は考えてくれており、計算の特例があります。
中小事業者が使える消費税の特例
中小企業者って?
まず、ここで言う中小企業者は基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者です。
売上が5,000万円と聞くと、申告時の売上かと思うかもしれません。が、そうではなく、2年前(2期前)の売上が5,000万円か否かです。
今期が1億円の売上があっても2年前(2期前)の売上が5,000万円以下であれば、中小企業者に該当します。
適用期間
ここで紹介する特例の適用期間は、2019年10月1日から2020年9月30日までとなります。
どんな特例なのか?
特例の前に原則的な消費税の計算方法を知らない方は、こちらをご参照ください。
消費税は、以前から原則的な計算方法の他に簡易課税制度を設けており、簡易課税なら課税売上高からおおよその仕入れ率を使って消費税額を計算できます。
但し、簡易課税制度が使用できる事業者には条件があります。条件は、ざっくり言うと2年前(2期前)の課税売上高が5,000万円以下の事業者で提出期限までに税務署へ簡易課税選択届出書を提出することです。
上記は今までにもあった制度で、以下が軽減税率導入に伴い、期間限定で使える制度です。
売上を8%と10%に分けられない事業者のための特例
大きく分けて3種類です。
1.軽減売上割合の特例・・・原則課税と簡易課税の両方で使えます。
連続する10営業日の8%対象商品と10%対象商品の売上の割合を使用して、全体の消費税の計算をすることができます。
10営業日はいつでもOKです。但し、通常の営業日です。何かの催しを行った日等は避けてください。
例えば、ある連続する10営業日の売上が、8%対象商品100万円、10%対象商品200万円、売上総額9,000万円とします。
この場合、
・8%対象商品に係る売上高 9,000万円×100万円÷(100万円+200万円)=3,000万円
・10%対象商品に係る売上高 9,000万円×200万円÷(100万円+200万円)=6,000万円
となります。
2.小売等軽減仕入割合の特例・・・卸売業と小売業を営む事業者で、原則課税の場合のみ使えます。
仕入に係る8%対象商品と10%対象商品との仕入割合を求め、その割合で売上について、8%対象商品に係る売上と10%対象商品の売上を求めます。
つまり、8%対象商品と10%対象商品を分けて売上高を求めるのは難しいけど、仕入だったら、8%対象商品と10%対象商品がばっちり分けてあるんだよね、という場合です。
例えば、8%対象商品に係る仕入が1,000万円、10%対象商品に係る仕入が2,000万円、売上総額9,000万円とします。
この場合、
・8%対象商品に係る売上高 9,000万円×1,000万円÷(1,000万円+2,000万円)=3,000万円
・10%対象商品に係る売上高 9,000万円×2,000万円÷(1,000万円+2,000万円)=6,000万円
となります。
※ここで言う仕入とは、俗にいう仕入高のみでなく経費も含みます。詳しくはこちらの課税仕入れを参照してください。
3.50%割合の特例・・原則課税と簡易課税の両方で使えます。
上記の1と2の両方が無理!という場合です。
課税売上高の半分半分を8%対象商品と10%対象商品の売上高とする方法です(思い切ったやり方です)。
例えば、売上総額9,000万円とします。
この場合、
・8%対象商品に係る売上高 9,000万円×50%=4,500万円
・10%対象商品に係る売上高 9,000万円×50%=4,500万円
となります。
この50%基準ですが、1と2の両方が困難な場合となっていますが、困難な度合いは問わないそうです。
ただし、50%基準は、軽減税率が適用される課税売上がだいたい課税売上全体の50%以上であることが条件となっています。
仕入を8%と10%に分けられない事業者のための特例
仕入を8%と10%に分けられない卸売業又は小売業を営む事業者は、小売等軽減売上割合の特例を使うことができます(原則課税のみ適用あり)。
小売等軽減売上割合の特例とは、売上に係る8%対象商品と10%対象商品との売上割合を求め、その割合で仕入について、8%対象商品に係る仕入と10%対象商品の仕入を求めます。
例えば、8%対象商品に係る売上高が1,000万円、10%対象商品に係る売上高が2,000万円、仕入総額1,500万円とします。
この場合、
・8%対象商品に係る仕入高 1,500万円×1,000万円÷(1,000万円+2,000万円)=500万円
・10%対象商品に係る仕入高 1,500万円×2,000万円÷(1,000万円+2,000万円)=1,000万円
となります。
※ここで言う仕入とは、俗にいう仕入高のみでなく経費も含みます。詳しくはこちらの課税仕入れを参照してください。
簡易課税制度の届け出の特例
簡易課税制度の選択は、通常課税期間開始の日の前日までに提出しなくてはいけません。しかし、適用期間内においては、2019年10月1日から2020年9月30日までの日の属する課税期間の末日までに提出すればよいことになっています。
例えば、個人事業主が2019年から簡易課税制度を利用したい場合、2019年12月末までです。
3月決算の法人が2019年4月1日から2020年3月31日までの事業年度から簡易課税制度を適用したい場合、2020年3月末までです。
注意点として、簡易課税制度は2年間継続して適用する必要があることです。
車を購入するなど、大きな金額の買いものをする場合は、簡易課税ではなく、原則課税の方が消費税の納税額が少なくなることが多かったりします。なので、2年間の予定をしっかり考えたうえで、簡易課税を選択しないと、損するかもしれません。